職人の目、職人の手




現代の日常着として(株)うなぎの寝床が復活させ、動きやすいとハルメク読者に人気の高い“ストレッチもんぺ” シリーズ。今回ご紹介するのは、肌寒い季節にぴったりのコーデュロイの一本です。生地を作るのは、国内唯一のコーデュロイの産地・静岡県のカネタ織物(株)。「うちの生地はコーデュロイの山が立体的で空気層ができてあたたかく、毛並みも美しい。海外製にはない、数多くの工程を踏んでいるからです」と太田充俊さん。まずパイル状に生地を織り、緯糸のみを緻密にカット。地下水で生地をもみほぐし、乱れた毛を高温で焼き切り、染色、縫製の工場へ。「熟練の職人のバトンリレーで生まれるぬくもりは、唯一無二。はくだけできっと、気持ちまであたたかくなりますよ」。




ガシャン、ガシャン━━。軽快な音を放つのは、福島県に伝わる会津木綿の機械。大正5年生まれの年代物です。「会津木綿は大量生産の波にのまれ、長らく土産物店でホコリをかぶっていました。地元のいいものをもう一度、手に取ってほしい。その想いで作り始めたんです」と谷津拓郎さん。織れる量は1日たった12m。特に(株)IIEは糸に糊を付けずに織るため技術力を要しますが、その懐かしい風合いは「肌に近い感触で、一度着たら忘れられない」。どこか工芸感のある色は、会津の大自然をモデルに。会津木綿の伝統の縞柄もアクセントに残されています。「夏は汗をよく吸い、冬は空気を含んであたたか。洗濯機で洗えるので、エプロン代わりに毎日着てほしいです」









厳しい寒さの下で働く人がこぞって選び、暖房を入れずに換気ができる洋服としても話題の“もちはだ®”。秘密はワシオ(株)の特殊な技術にあります。「編みながら起毛するんです。ふわっとあたたかな空気を含む生地やから、発熱する防寒着と違って汗をかいても冷えにくいんよ」と鷲尾吉正さん。これを実現するため、なんと編み機ごと独自に改造。編む技術と編み機を作る技術、ともに一流なのですから驚きです。5 年前には息子の岳さんが入社。若者の視点で洗練された商品を増やし、「世界から寒いをなくしたい」というワシオ(株)の想いはより多くの人に届くようになりました。「このカーディガンは、見た目以上に軽いんよ。パイピングまで伸びるから、ぐんぐん動ける」。冬の家時間に、ぜひ。






毎日使うのに頻繁に洗えず、大きくて除菌も大変。「感染対策が疎かになる布団を抗菌で作り、眠りに安心をもたらす。これが私たちの使命でした」と山本一幸さんは言います。抗菌は生地にとどまらず、肌に触れない中わたまで。老舗のプライドを感じます。もちろん抗菌だけではありません。生地は肌にやさしい綿100%で、掛けカバーいらず。中わたは洗濯を繰り返してもふっくら感が続き、寝返りを妨げない軽さ。繊維をこすり合わせて空気を含ませる加工で、保温力も兼ね備えます。驚いたのが、ひと握りのわたを四隅に詰める差しわた≠ニいう配慮。「これがあるとないとでは、あたたかさが違うんよ」と山本さん。職人の多くはハルメク世代の女性。手作業のぬくもりで、冬の寝室の不安を吹き飛ばします。






国産毛布の90%以上を作る、大阪府の泉大津。なかでも唯一、毛布の染色までをも一貫生産するのが森弥毛織(株)です。「今回は、うちしか使えへん糸で作った特別な毛布。アクリル毛布は“ザラごわ” という印象がくつがえりますよ」と森口憲一さん。その糸とは、繊維の断面がそら豆の形で、編み立てると円形の繊維よりぎっしり詰まってなめらかな感触。さらに何度も掻いて起毛させることで、なめらかさと保温力が高まるのです。寒さから体を守るミンクの毛皮の二層構造にヒントを得たのだとか。静電気防止の糸や抗菌加工を施す気配り、洗濯機で洗える実用性、視覚からもあたたかみを感じる奥行ある色も森弥毛織(株)ならでは。この染色の技術を守りたいと、息子の陽平さんも数年前に入社しました。「掛け毛布と敷き毛布の併せ使いであたたまってほしいです」





ゆとりあるキャスケットと日差しを防ぐハットのいいとこどりをし、2年前に即完売した帽子。額部分に汚れを防ぐテープを加えました。小顔に見せる立体感や襟をジャマしない後ろツバ、頭に沿う丸み。「そのために多くのパーツを縫い合わせます。1ミリずれると1センチもサイズが変わってしまうのよ。でもその甲斐あって、フィット感は段違い」と石井由美子さん。ぜひ体感を。






美しい編み地の五泉ニットのストールに、穴が2つ。「普通のストールは動くと肩から落ちる。だから着るストール〞を作りました」と斉藤佳奈子さん。モチーフは、雪国に伝わる蓑笠。上下の柄は神聖なしめ縄を模しています。生後2 年以内、1 頭から1 キロ弱しかとれないベビーアルパカの初刈りの毛を使ったしっとりした感触。羽織って、巻いて、ひざにかけて、場所を選ばず使えます。



縫い目は、ゼロ。「手をグーパーしても突っ張らない着け心地は、手袋の一大産地・東かがわの職人技によるもの」と北山義晃さんは言います。生地を傷めないよう、起毛には高級な着物の起毛にも使われるチーゼル〞という植物を使用。糸自体も起毛しているため、あたたかさは格別です。抗菌仕様なので、買い物や公共交通機関を使う外出にも活躍します。




グレードの高いオールステンレス製。持ち手に適度な重りを入れることで、腕には軽いのに、重さを利用した抜群の切れ味を実現しました。これは、刃物の街・燕三条の職人が手作業で実現しています。「継ぎ目がないため汚れが溜まりにくく、とても衛生的。長もちしますよ」と野本雄生さん。三徳包丁は、肉や魚にも。少し小さめのペティは、野菜を切るときにも活躍します。






ありそうでなかった斬新な発想。腰を曲げず、はさみで紙を切るように失敗なく切れる足の爪切りばさみ〞は、滑O山刃物の遊び心から生まれました。「普通のはさみと違って受け刃と切り刃の形が違うため、作る手間は2倍。でも腰痛を抱える方の助けになるなら」と吉田裕太さん。高価ですが、一生ものです。

